失笑を巻き起こす道化ならお手の物。2012/01/31

失笑を巻き起こす道化ならお手の物。
今年はブログの更新頻度を上げようと考えていたのに
この体たらくである。
もっとも、更新しようにも年明け早々とにかく忙しく、
仮眠、仮眠の連続で、
まともにベッドで寝た日の方が少ないくらいであった。
 
それもやっと一段落したので、平日ではあったが、
以前無料チケットを入手していたサーカスに、
せっかくなので家族で行ってきた。
 
市内にこれほどの空き地があったのかと思った広場に、
臨時の駐車場とサーカステントが設けられており、
遠目から否が応でも期待を抱かせる。
 
開場を待つ列に並んでいると、
入場整理の人の日本語がかなり怪しい。
運営会社はともかく、スタッフやパフォーマーの団員は中国などの外国人が殆どかもしれない。
 
アクロバティックな演技や、大車輪、バイクパフォーマンス、空中ブランコに道化…。
 
このサーカス団のレベルがどの程度か、観覧機会の少ない私にはよくわからないが、
休憩をはさんで2時間弱ほどの間、テントの中の非日常空間をまずまず楽しめた。
 
シルク・ドゥ・ソレイユのような大規模のところはともかく、
このくらいのサーカス団だと、どことなく哀愁があって懐かしい気持ちになる。
実際には出し物に新旧の違いはあるのだろうが、新鮮な驚きよりも郷愁を呼び起こすのだ。
そしてその非日常感は、遠い遠い華やかなものというよりは、
裏町の秘密の場所で、夜な夜な繰り広げられているに違いないと思わせる妖しさがある。
 
子供の頃に見たチンドン屋や、見世物小屋に通じる、
「すぐ隣にある異世界」とでもいうべき、独特の雰囲気をもっているのではないだろうか。
夜であれば、テントを出ると黒猫に導かれて不思議の国に迷い込んでしまうかもしれない、
そんなおとぎ話を信じたくなる時間でもあった。
 
と、まあ、タダ券で行っただけのイベントに、もっともらしい事を書いているが、
実際は熱々のたこ焼きをハフハフ頬張りながら、能天気に眺めていたのは、家族しか知らないはず。
 

平凡と非凡の狭間で惑う裁判官。2011/12/30

平凡と非凡の狭間で惑う裁判官。
先日、TEDでのスピーチでも有名な
デレク・シヴァーズの文章を目にする機会があった。
「あなたには当たり前の事が他人には驚くべき事だ」
と題された文章である。
 
あるクリエイターが革新的で素晴らしいものを作る。
その考え方は思いもよらないもので、
誰しも自分の考え方は普通でありふれている、
それだけの創造力が無いんだろう、と思いがちだ。
 
しかし、ある時に他人から驚きとともに言われる。
「そんな考え、どうやって思いついたんだ?」
 
また、ある売れっ子ミュージシャンは、
一番のヒット曲は発売するまで
録音する価値も無いと思っていたらしい。
みんな自分の考えはありふれたものだと思っているのだ。
 
つまり、自分の発想は自分にとっては当たり前のことで、何も特別な事は無いのだが、
他人にとっては、全く違う個性・世界観から発想されたものなので、斬新で新鮮なのであろう。
 
そういえば、とりたてて凄いとも思わなかった仕事を、クライアントから絶賛された事があった。
神の仕事のごとく言われたので、狐につままれたような気持ちになったのであるが、
我々は自分自身の創作物に対しては、一番腕の悪い裁判官だと彼が指摘した通りなのかもしれない。
だからこそ、創作物は広く公開して他者の評価を受けるべきであると。
 
実はもう10年も前から構想だけはある、いくつかのアイデアがある。
日常の忙しさにかまけていただけでなく、上記のような自分自身の評価ゆえの疑念もあって
プロットからひとつも進んでいないプロジェクトを、少しずつ具体的なものにしてみようと思う。
 
いずれにしても長い時間がかかるし、また公開するまで本当に非凡なものかどうかは判らないが、
生きているうちに全ての能力を吐き出さなければ、後悔する事は間違いない。
 
公開しなければ後悔するという、ベタすぎるオチではいくらなんでもあんまりだな。
誰が見ても非凡なものが何一つ無い。
デレク、どうやらあんたの買いかぶりだったようだ。
 
今年の更新はこれが最後である。社会的には激動の一年、私には生涯最速で過ぎた一年であった。
ろくに更新出来なかったが、来年はもう少し頑張ろうか、いや頑張ります。
皆様よいお年を。
 

10000ボルトの人間発電機か、仏様か。2011/12/22

10000ボルトの人間発電機か、仏様か。
冬である。
当たり前だが寒いのである。
 
寒いのは仕方ないとしても、
静電気は何とかならんか。
若い時はそうでもなかったが、
この数年やたら我が身が静電気を発する。
服を脱ぐ度にパチパチと放電、さながら人間発電機。
暗闇で電光が走る。ま、そこはちょっとカッコいい。
 
服の素材の組み合わせでも起きやすいと聞く。
化繊のフリース、綿のシャツ、ヒートテック的な肌着、
そして本体。
この中の組み合わせのどれかが怪しいという事になる。
 
服を一枚脱ぐ度に「わ~パチパチ君だ~」と家族が逃げ回る始末だ。
空気の乾燥や服の素材の問題だけでなく、肌が乾燥していることも大きく影響していると思われる。
その所為か今年も異様に皮膚が痒く、掻き過ぎたために腕の一部が荒れてザリザリになっているのだ。
おかげでそれも加えられて「ザリパチ君だ~」に変えられてしまった。
 
それどころか、すっかり冬支度となった我が頭髪をちらりと見やりながら、
「ズルザリパチ君だ~」と、もう訳が分からん状態になってきた。
 
確かにこのところ加齢のせいか、肌の乾燥具合は相当ひどい。
10年前までは吸い付くような肌と言われていたのが嘘のようである。
皮脂の分泌が極端に減った為に肌の表面の水分の蒸発が止まらず、加速度的に乾燥していくのだ。
 
それにしても、この乾燥の仕方は加齢の事を差し引いても尋常でない。
生きながらミイラになっているのではないか。
 
もはや即身仏と言っていいだろう。
 
もちろん徳も何も積んでいない、少しもありがたくない仏様なのであるが。
家族が「ズルザリパチ君だ~」とか言って、キャーキャー逃げ回っているうちはまだマシかもしれない。
私に向かって「南無南無」拝み始めたらおしまいである。
 
ところで静電気と言えば、誰しもドアノブでの感電の経験があるはずだ。
私など一旦ドアノブを勢いよく叩いて、その痛みで誤摩化す本末転倒な解決方法をとったりしている。
「歯の痛みを忘れる為に目を針で刺す」漫才ネタの様な事をやっている限り、即身仏まではまだまだ遠い。
 

黴に埋もれていた、超一流と三流の越えられぬ壁。2011/11/29

黴に埋もれていた、超一流と三流の越えられぬ壁。
閑静な高級住宅街を静かに走る一台のベンツ。
「今日は楽しかったわ。」
と助手席の女が話しかけた。
何処かのお嬢様らしいノーブルな美人で、
シックな一流のファッションともあいまって、
かなりの上流の出身を窺わせる。
運転席の若い男は前を見据えながら、
「ビングバンドのジャズもいいよね。
 オペラとどちらにしようか迷ったんだけど。」
端正な顔立ちの美男だが何処か世慣れた感じもみえる。
「あら、それなら私、
 ジャズよりオペラの方が良かったかな。」
男は意外そうに横目で女を見やりながら
「でも君のお父様はジャズ好きで有名じゃない?
 同じ財閥の人達にも好きな人多いって聞くよ。」
「え?あ、ああ、父は父よ。」
女が少し慌てて言ったあと、やや気まずい沈黙が流れた。
「すっかり暗くなったね。今日は君の家まで送るよ」
女はギクリとしたように、
「い、いえ、いつものように近くで降ろしてくれればいいわ」
「いや、今日は送らせてよ。高級住宅街といっても夜は危ないよ。できればご両親にもごあいさつを…」
女は急に狼狽えだした。
「だめ、だめ。…まだ…そんな関係じゃないし…。ああ、そこで停めてちょうだい。」
「ええ?こんなところで?」車を停めさせたところは家並みから離れた公園の前だった。
 
女はしばらく俯いてなにか逡巡しているようだったが、意を決したように若い男の方に向き直り、
「私、本当はお金持ちのお嬢様なんかじゃないのよ。家はもっと下町の普通のマンション。あなたに嫌われたくなくて嘘をついてたの。」
「…何だって?」男の表情が一変した。
「嘘をついていたのはごめんなさい。でも家の事なんか関係ないわよね。」
「降りろ。」しばらく無言でいたが、男は冷たく言い放った。
「……。」女は男の冷酷な口調に激しく動揺していた。
「降りろ!ふざけるな!金持ちだからわがままの相手をしてやったきたんだ。貧乏人の娘なんかいらないんだよ、金輪際俺の前に顔を出すな!」
「ごめんなさい、ごめんなさい。お願いだから捨てないで、あなたのことが好きなのよ。」
女は泣きじゃくっていた。
「降りろ!」
若い男は強引に女を車から降ろし、乱暴にタイヤを軋ませながら発進していった。
 
女が呆然と立ち尽くしていると、待っていたかのように後ろから大型の黒塗りの車が近づいてきた。
「お嬢様。」と車から降りてきた細身の紳士が話しかける。
「やはりお父様のおっしゃった通り、一芝居うって確かめた甲斐がございましたでしょう。」
さらに慇懃な様子で続ける。
「所詮あの程度の男だったのです。さ、お屋敷にお戻りくださいませ、お母様がお待ちです。」
更に山の手の邸宅に戻る車の中で、女はもう泣いていなかった。
 
若い男はしばらくベンツを走らせた後、住宅街のはずれの駐車場に停めた。
程なくすると、今度は恰幅のいい紳士が乗り込んできた。
男が苦笑いしながら饒舌に喋りだす。
「最後までなかなかの名演技だったでしょう?しかし今までお嬢様の相手は大変でしたよ。」
そう言うと端正な顔立ちを下品に崩しながら、更にあれこれ苦心した話を始めた。
紳士はしばらく男の話を聞いていたが、深くため息をついて、
「長い間ご苦労だったな。だがこうやって娘に悪い虫がつかんよう教育する親の身にもなってほしいね。」
そう言った後、車を降りながら男に声をかけた。
「そうそう、報酬は君の口座に振り込んでおいたからね。」
 

 
さて、突然何の話を始めたのかと思われただろう。
これは遥か昔、私が今の仕事を始めてまもない頃に「お嬢様の嘘」というタイトルで書いた、
何らかの紙媒体に掲載されたものとしては唯一のショートショートである。
 
当時ひょんな事から、月刊4ページのミニコミ新聞のデザインと編集までをやらされていた。
ところがある号で1面の記事に穴があいてしまい、私が文章を書いて埋めなければならなくなったのである。
締切が迫っており、しかたなく近所の終夜営業していたミスタードーナッツにこもって、
夜中2~3時間ほどかけて上記の作品を書いた。
当時お嬢様ブームなるものがあり、4月号ということでエイプリルフールにかけてこのタイトルにしたのだ。
 
突っ込みどころは多いと思うが、なにしろ僅かな時間でプロットから推敲までやっているので仕方がない。
その後挿絵も描かねばならず、私にはこれが限界であった。
ひとつ気になるのは、中高生の頃に星新一の作品は殆ど読んでいたので、
剽窃は行なっていないが、もしかすると知らず知らず何れかと似た作品になったかもしれない事だ。
むろん超一流と三流の壁はどうしようもない。それでも当時は穴埋めとしては上出来と自賛していたのだ。
 
先日この文章を発掘したので、古くてカビ臭いとは思ったが、せっかくだからここに記録として掲載した。
べ、別にネタが無くて困っていたところを、これ幸いと載せた訳じゃありませんからね!
 

Steve, requiescat in pace.2011/10/06

Steve, requiescat in pace.
スティーブ・ジョブズが亡くなった。
享年56歳。早すぎる死である。
 
彼の人柄や、偉大な業績については、
すでにあちこちであらゆる立場の人が書いているので、
ここででは多くを語らないことにする。
 
Apple製品との付き合いはMac導入後からなので、
もう20年近くなるだろうか。
最初のMacはまだPowerPCでさえ無い、
メモリ40MB、HDD500MBと言う非力な、
今から思えば、
よくそれで仕事できたなというマシンだった。
それを遥かに凌駕するマシンが、
今ではポケットに入るのだから隔世の感である。
 
あれから増えた、いくつものApple製品のリンゴマークを見つけては、
子どもが「あのリンゴは誰がかじったの?このリンゴは?」などと言っていたことを思い出した。
Apple=Steveとされる男が去って、これからの世界最大の企業が果してどうなるか、興味深い。
 
「毎日を人生最後の日だと思って、素晴らしいと信じた仕事をすれば、誰でもひとかどの人物になれる。」
という言葉を17歳から信じて、ジョブズはその通りに生き、ひとかどのどころか伝説的な英雄になった。
アップル公式サイトのトップページに掲げられた彼の有名な画像は、ファイル名が「t_hero」である。
 
ジョブズの写真を見る度に、家族は私に雰囲気が似ているという。
あんなイケメンではなく、それほど似てるとは思わないが、年を重ねると似てくるのかもしれぬ。
彼のようには生きられなかったし、またこれからも全く違う生き方になるだろうが、思うところはある。
 
どうも人生を無駄に過ごしてきたような気がしてならない。謙遜でなく馬齢を重ねてきたのではないかと。
若い時に思い描いていた目標の自分に近づいているのか、あの頃望んでいた未来に立っているのか。
 
ここ数年、ずっとそのあたりのことを考えていた。
食うための仕事、儲かるための仕事に追われて、本当にやりたいことをやって来なかったのではないか。
彼の言葉を借りれば、まさに、
「あなたの時間は限られている。だから他人の人生を生きたりして無駄に過ごしてはいけない。」
人間,人生の折り返しを過ぎるとそんな事を思うものらしい。
自分が何も成し遂げてない、何かやり残したことがあるような気がして、激しい焦燥感に駆られるのだ。
 
そして今も焦燥感に駆られている。早く、早くオチを思いつかなければ…。
 
いや、今夜はやめておこう。
スティーブン・ポール・ジョブズ。心よりご冥福をお祈りいたします。
 
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